皆様はこの写真が何かご存じですか?
実は、これは加計呂麻島の呑ノ浦(のみのうら)集落で現役で活躍している五右衛門風呂です。
まず、五右衛門風呂とは、俗説ではありますが、
石川五右衛門という人物が釜ゆでの刑に処せられた時に用いられたことに由来します。
用途は、釜を取り付け、かまどに据え付け、その下で薪をたいて沸かす据風呂のことです。
このお風呂に浸かった記憶のある方や、風呂を炊いた方もいらっしゃると思います。
昔の奄美大島は各集落で、この風呂が愛用され、家の離れには必ずと言っていいほどあったそうです。
しかし、ガス風呂が出てきてからは、もうほとんど使われなくなり、各集落でもその影が薄れてしまい、
その跡だけが畑などや倉庫として寂しく残るだけとなってしまいました。
そんな五右衛門風呂が現役で活躍している加計呂麻島の俵(ひょう)集落で、
今回その釜の取り換え作業が行われたので記録してきました。
まず、地元の方に五右衛門風呂の歴史を尋ねると、俵集落では共同風呂があったそうです。
2人入れるくらいのスペースをもったタルでできた風呂で、タルは直接火にかけてしまうと焼けてしまうので、
タルの下に鉄釜を下敷きに置くなどして工夫がされていたそうです。
一般の五右衛門風呂では、3~4本ぐらいの柱で釜を支えてその周りを赤土で固めて使っており、
また、戦時中では、釜の代用としてドラム缶が使われるなどしていたそうです。
作り方は、その家々で違うみたいですね。
これが、焚口です。
長年、使われたために周辺が真っ黒!!
この風呂は昭和40年頃(今から48年前)に作られ、東京で修業を積んだ左官屋さん率いる4~5人の方々が手懸けたそうです。
なるほど、48年も前に作られ、それからほぼ毎日使われたらこんなに真っ黒になるのも当然ですね。
燃やす木材は、枯れた燃えやすい小枝やそれを勢いよく持続させる太い木、さらに廃材や竹など。
聴けば、椎の木が一番燃えやすいだとか・・・
さて、これが今回新しく取り換えられる釜です。鋳物でできており、叩いてみるとカーンカーンと鳴り何とも良い響きです。
この釜は今では、予約しなければ手に入らないものとなりましたが、
昔は、専門のお店では購入できたそうです。
だいたい金額は5~6万!
なかなか良いお値段ですね~。
① 古い釜の取り外し
さあ、いよいよ作業開始!!
作業は、3人で実施。
まずは古い釜を取り外し。できる限り、この釜を傷つけないようにゆっくりゆっくり慎重に・・・
(古い釜は後で畑などに持っていって、溜め水としても使えるので)
きれいに1周杭を打ち込んで外そうと試みましたが、何とこの風呂釜は外れない。
聞くところによると、普通は、風呂釜の上部のほんの一部分しかコンクリートで留めるはずなのですが、
この風呂釜は、上部から中部にかけてまでコンクリートを流し込んでいる、大変手の込んだ五右衛門風呂でした。
さすがは東京で修業された方の五右衛門風呂です!お見事!
これにはさすがに作業する人たちも腰が抜けてしまいました。
結局、風呂釜は粉々にすることになり、
始まりから大がかりな作業となってしまいました。
風呂釜は取り外し後、このような状態に・・・
ついに48年間の歴史に幕を下ろすことになりました。
今まで熱い炎の中本当にありがとう。
溜め水として使えないのは非常に残念ですが、その後、畑に持っていかれました。(何に使われるのかは不明)
ところで取り外し後の中は・・・
深さが72cm
上部をコンクリート、中部から下部にかけては、レンガで固められていました。
レンガも48年間、火を受けていたため表面は真っ黒に。
② 新しい釜の取り付け
次は、新品釜の取り付けです。
ここまでは順調と思いきや、再び難所がやってきました。
今度は、新品の釜が入らないという事態に・・・
③ 外壁掘削
釜が入らないので周りをハンマーや杭を駆使して掘削開始!
上部のコンクリートは堅くて思うように削れませんでしたが、
中部から下部のレンガはもろいので簡単に崩れました。
それから、何回か釜を入れたり、周りを削る作業を繰り返し行い、釜が入れるように微調整していきました。
この作業は2日間に及びました。
中に入ると体中真っ黒に!!
長年の灰とコンクリートの粉末が舞っているため、防塵マスクは特に必需品です。
④ コンクリート詰め
掘削を繰り返していくうちに無事、新しい釜を入れることに成功しました。
そして、いよいよ最後を締めくくる作業は、コンクリート詰めです。
このコンクリート詰めは、風呂釜が不安定になったり、さらに隙間から焚いた際の煙が出るのを防ぐため、大変重要な作業です。
ある程度コンクリートを詰めたら、後は、焚きながら隙間がないように確認して詰めていくのがポイントです。
全て詰め終わると、コンクリートが固まるのを待つだけです。
こうして、3日間にわたった作業が無事終了しました。(はぁ~、だれつきた~)
コンクリートが固まるのには少し時間を要するため、
完成したらまた写真を載せたいと思います。
あまりの五右衛門風呂の細かい作りに苦心し、予定より長い時間をかけての作業となりました。
作業に携わった皆様、本当にお疲れ様でした。
こちらの家の方も、新しい五右衛門風呂に入るのが楽しみだとおっしゃておりました。
俵集落では、夕暮れ時になると煙が立ち昇る家が少なくなってきています。
今回、取材させていただいた家は数少ない五右衛門風呂を持つ家です。
高齢化に伴った現象でしょうか?
少しずつ失われていくシマの風景。
48年の歴史を刻んだ釜に代わり、新たに歴史の出発点にたった新しい五右衛門風呂。
これからも昔から続くシマの姿をどうか残していってほしいと思います。
そして、またいつの日か、各集落でこのような五右衛門風呂の温もりのある煙に包まれた風景を見ることができればと思います。
瀬戸内町・俵集落
S.B.I 調査員 K.K
2013.11.22