旧暦の九月九日(クガツクンチ)は、諸鈍シバヤをはじめ、
実久三次郎祭り、各地の権現祭など集落によってさまざまな伝統的行事が行なわれています。
「瀬戸内町誌 民俗編」によると、
旧九月九日はミキを作り、
村の神山や神社にて、火ノ神や健康への祈願をし、
集落よっては、八月踊りの踊り納めが行なわれたりしていたと書いてあります。
さて今回は、瀬戸内町の西側にある、
管鈍(くだどん)集落でミキ作りを記録させていただきました。
旧九月九日(新暦10月23日)の前日の朝8時、
公民館にまず集合です。
男性は区長だけで、主に婦人による作業です。
区長は山からミキのフタにする芭蕉の葉を採られてきてました。
芭蕉(ばしょう)はバナナに近い仲間で、奄美では山のあちこちに生えています。
バナナと同じような実をつけますが、種が多くあまり食べられません。
葉が広く柔軟性があるのでおにぎりの敷物などにも使われたりします。
公民館の中では、ミキ作りが始まっていました。
台所では、ミキに入れるサツマイモの皮を綺麗にむき、おろし金ですり下ろしています。
一方では大きな鍋に、米粉と水を入れて炊いています。
米粉は、古仁屋の製粉屋に米を持って行ってお願いして作ったものです。
炊いている間、婦人の方々が交代で混ぜ続けます。
そうすると、30分ほどで粘り気が出て、
最後は白いカスタードクリームのようになりました。
あとは冷ましてからイモを入れるので、
一旦、芭蕉の葉でふたをして休憩です。
休憩中、集落を散策していると、可愛い犬が。
遠くから尻尾を振って、耳を垂らして遊んで!と訴えてきたので、
ちょっと遊んできました。のどかでいいですねー。
さて午後になり、4時間ほどたって冷めた鍋に、
生のサツマイモのすりおろしたのを混ぜます。
少しずついれ、丁寧に、全体に回るように混ぜていきます。
綺麗に混ざったら、最後はミキ用の壺に入れて完成です。
壺は芭蕉の葉3枚をかぶせ綺麗にふさぎ、準備したワラできっちりと止めます。
ここで隙間があると寝かせてる間に虫が入って大変だとか。
大きい壺は本体でミキの原料を入れ、
小さい壺には鍋に残った僅かなミキを水で薄めて入れました。
壺を開いた時、本体のミキがさらさらになっていない場合、
小さい壺の水で薄めるためのものだそうです。
さて完成したミキを、管鈍集落の山手にある巌島神社に持っていきます。
ミキはそのまま巌島神社で寝かせます。
神前に置き、現在神社を管理している神様(島のお祓いやお祈りをする人)がお祈りして、
仕込みはすべて終了です。
さて翌朝、とうとう 「 ミキ開き 」 です。
まずお祈りしてから、フタである芭蕉の葉を取ります。
壺の中では、ミキができあがっていました!
前日にはクリーム状だったのに、
すでに発酵が進み、米とイモだけですが、
甘みもあり、本当においしくできあがっていました!
発酵のチカラってすごいですね。
外はあいにくの悪天候だったので、
最後にミキを公民館に下ろして、神社までこられない人へ配りすべて終了です。
旧九月九日は、生活の面で見ると、
三月三日、五月五日と並んで
単衣(裏の貼っていない着物)から衣替えする時期でもあったようです(「瀬戸内町誌」より)。
自然の変化を旧暦になぞり、
生活に取り込む昔の人の生活の知恵ですね。
今は基本的に新暦で動いてますが、
昔の人は旧暦と季節のつながりをいろいろと知り、
自然の流れや変化に逆らわずに生活していたんですね。
島では今でも、「まだ~月なのに今年は寒い」と言うと、
「もう旧暦の~月だからね」というふうに、
意識の中では旧暦が残ってらっしゃる方も結構いらっしゃいます。
いろいろと進歩して変わっていきますが、
こういった環境に密着した自然とのつながりや利用は、
変化しながらでも残っていってほしいですね。
現場監督 水野
2012.10.22・23 (旧暦9月8・9日 クガツクンチ)
瀬戸内町 管鈍
S.B.I (瀬戸内町 文化遺産 活用実行委員会)
鹿児島県 奄美大島 瀬戸内町立図書館・郷土館内