芭蕉の糸づくり

2013年03月30日
南の島らしく、
奄美でいたるところで見かけるバナナ(芭蕉)の木。

これには、食べられるバナナの実がつく「実芭蕉」と、
糸がとれる「糸芭蕉」があると知った時には驚きました。

その糸芭蕉の幹からとった繊維で
糸をつむいで織る芭蕉布。

軽くて通気性がよく肌触りがさらっとしている芭蕉布の着物は、
バシャギン(芭蕉衣)と呼ばれ、
高温多湿な奄美や沖縄の島々の暮らしに適していて
長いあいだ人々に愛用されていました。

そんな芭蕉布のできるまでの一端「芭蕉の糸づくり」を
加計呂麻島の諸鈍(しょどん)で記録してきました。
 


バシャギンは庶民の普段着として、また上質のものは役人が着用。
邪を払うとして、ノロ神の衣装にもなっていました。

そして薩摩藩への献上品、交易品としての役割も。

芭蕉が着物になるまでの工程を詠んだ
「バシャナガレ」というユタ神の呪詞もあります。

いつごろからバシャギンが着られていたのかははっきりしないようですが、
幕末の奄美を描いた名越左源太の「南島雑話」でも、
島中の人々がバシャギンを着ていて、婦人が手作りに大変苦労していると
芭蕉布の織り方の工程が図入りで詳しく描かれています。


大正頃までは、バシャギンの着用度が木綿と匹敵するぐらいだったよう。
しかし、洋服が普及してくると
手間のかかるバシャギンはほとんど作られなくなってしまいました。

途絶えつつあるこの貴重な伝統技術を再生しようと、
奄美大島では、少しずつ取り組む人々が出てきています。


体験した「芭蕉の糸づくり」のおおまかな手順です。

① 苧剥ぎ ( ウーハギ )  芭蕉の木を切り倒して、皮を剥いでいく

② 苧炊き ( ウーダキ )   剥いだ皮を灰汁で煮る

③ 苧挽き ( ウービキ )  皮から不純物を除き、繊維を取り出す

④ 苧績み ( ウーウミ )  繊維を細く裂き、結びつないで1本の糸に



今回は、糸芭蕉を山から切り出すところから始まりました。


 *  *


① 苧剥ぎ (ウーハギ)

いざ、ジャングルのような山へ。



苧倒し(ウーダオシ)。
糸芭蕉は3年ぐらい経って、成熟したものが刈り取りの時期。
苧倒し


ウーダオシには、11~2月がいい季節。
3月だとちょっと遅いそうです。

夏の間は葉を落としたり、
背丈の伸びた幹の上部を切り落として太さを均一にする「芯止め」という手入れをします。


余談ですが、
奄美では昔から美人でない年頃の娘を「バシャヤマ(芭蕉山)」と表現します。
持参金代わりに、芭蕉の山を特別に付けて嫁に出さないと貰い手がないほどの器量・・だそう。


糸芭蕉にも、かわいらしい花と小さな実がついていました。
種が大きいですね。この実は、ふつうは食べません。



切った幹の外側硬い部分の皮を剥ぎとります。





口割い (くちわい) 


根のほうを上にし
巾1.5cmぐらいにナイフで薄く切込みを入れ、
1枚ずつ下の方まで皮をきれいに剥ぎとっていきます。


幹は輪層をなしています。
外側から繊維の質順に3種類に分けていきました。

外側の繊維が粗く、内に向かうにつれて細かい繊維がとれるので、それぞれ用途も変わります。 
講師の利津子さんはこんなふうに使い分けているそうです。
一番外 3番 ・・ 繊維が荒いのでテーブルセンターやタペストリー
      2番 ・・ 帯など
      1番 ・・ 繊維が細くキレイなので着物に



幹の本当に中心部分は、スポンジみたいなので糸は取りませんが、
天ぷらにしたり、湯がいたりして食べられます。
あとで試食するとのことで楽しみ!



すぅっーっと、下まで一気にきれいに剥ぎとれた時は、気持ちいい!



ちゃんと根のほうが分かるように束ねておきます。
手前から1番、2番、3番。皮の色や粗さがが違うのがよく分かります。







② 苧炊き (ウーダキ) 

ウーハギした皮を灰汁で煮て、繊維を柔らかくしていきます。


鍋の底に細い紐を2本敷いておくと、ひっくり返す時に便利とのこと。
利津子さんは、自家製の灰汁を持ってきていました。
ペーハーも調整しておかないと、繊維の風合いに影響がでるそうです。



山から戻って、諸鈍のデイゴ並木のはしっこで作業。
繊維の種類別に、3つの大鍋を使って煮ていきます。



約1時間ほど炊いているので、
待っている間に糸芭蕉の真ん中の部分を天ぷらに。



揚げたては、シャクシャク感が蓮根のようで美味しかったです!
誰かが醤油やみりんで作ったタレをかけてましたね~。



ぐつぐつぐつぐつ。だいぶ柔らかくなってきたようです。
煮え過ぎると糸が切れてしまうそうなので、見極めが肝心。



頃合いを見計らって、紐を使って引きあげます。
この後は、灰汁を落とすため水洗い。




③ 苧挽き (ウービキ) 

煮た皮の不純物を取り除いて、繊維を取り出します。


根のほうを片手で持ち、竹のハサミで不純物をシュッと一気にしごきます。
ここで引っかかりながらやると、それが糸に残ってしまうんですよね。

▲講師の佐藤利津子さん。加計呂麻島に住んで5年目。


自家製酵母の石窯焼きパン「工房 楽流(らくる)」をご夫婦で営みながら、
利津子さんは、「手織屋 楽流」として、いろいろな繊維で織り物を生みだしています。

ショールやストール、帯、着物などを制作。年に1回ほど島外で個展も開催。



こんなふうにニュルニュルした不純物が。
これは紙の原料にもなるそう。芭蕉のはがき作りも楽しそうですね。



不純物を取ったものは、干していきます。
天気がよくって作業もなごやか。



乾くとこんな感じ。だんだん繊維らしくなってきました。
ただ乾燥しすぎると切れてしまうそう。
湿度が高い奄美にはやはり適しているんですね。




④ 苧績み (ウーウミ) 

用途に応じて繊維を細く裂き、つないで1本の糸にしていきます。


乾燥させた繊維は、ドーナツ型の「チング巻き」にし保存。
つなぐ時には水に浸してから始めます。



利津子さんがまずは糸のつなぎかたの見本を。



糸の紡ぎ方は、「はた結び」と「撚(よ)りでつなぐ」ふたつの方法があります。



繊維を1本の糸にしてつないでいくのは、本当に地道な作業。
芭蕉布の工程でも一番時間のかかる手仕事です。


利津子さんの手先を何度も何度も見ながら、みなさん挑戦。



1mちょっとの繊維をつないでつないで、1本の糸へ。
着物一反を作るには、
約200~300本の糸芭蕉が必要とも言われています。
いったい何回糸をはた結びをすればいいのでしょうか。






この日は、加計呂麻島に住むかたたちが集まりました。
昔はこうやって、みんなでおしゃべりしながら作業していたんでしょうかねー。



いつもは瀬相港にいる移動販売の珈琲屋「なますて茶屋」さんも
諸鈍デイゴ並木に出張。
集中して作業する合間のコーヒーブレイクは格別!



この日は約1時間ぐらいの苧績み(ウーウミ)。
自分でここまでできた達成感で晴れ晴れです。



切り倒した糸芭蕉をこのぐらいの糸にすることができました。
ミサンガとか作れるでしょうか!? たぶん足りないでしょうね・・。



芭蕉布を作るには、糸にしたあとも
再び煮たり、染めたり、機織りとさまざまな工程があります。

気の遠くなるような作業を経てできる芭蕉布。
そのほんの一部ですが、
体験することで「昔の人は、すごい」という言葉がしみじみ出てきました。
 



とても楽しそうに、やわらかい笑顔で作業する利津子さん。
芭蕉や織物を愛おしく思う気持ちが、よく伝わってきました。

芭蕉を素材として織り物をするのは島に住んでから。

「せっかく芭蕉のある島に来たので、島にある素材を活かしていきたい。
とても手間のかかるものだけど、きらきらしてとても綺麗。
少しずつでも関わっていきたいです」。

お隣にはご主人のノブさん。パンを焼き、絵を描きます

 


島の自然の恵みをたっぷりと浴びて育った糸芭蕉。
そこから生まれる芭蕉布は、島の風土に合った着物です。

芭蕉布のワンピースで夏の奄美を過ごせたら、
涼やかでとても心地いいだろうなーと想像がふくらみます。


興味を持つ人が増えれば
このようなワークショップで技術が広まり、
奄美でふたたび芭蕉布がよみがえるかもしれません。

先人たちの知恵、
島ならではのものが、少しでも残っていきますように。






<参考文献>
・「 奄美文化誌 南島の歴史と民俗 」   長澤和俊 編
・「 南島雑話の世界 名越左源太の見た幕末の奄美 」   南日本新聞社
・「 南島の伝統的なくらし 」   芳賀日出男

  


2013.3.14 瀬戸内町 加計呂麻島 諸鈍 

S.B.I (瀬戸内町 文化遺産 活用実行委員会) 広報K

鹿児島県 奄美大島 瀬戸内町立図書館・郷土館内