12月11日(水)瀬戸内町立図書館2階にて
SBI講座『デイゴヒメコバチってなぁに?』を開催いたしました。
文化遺産という目線から外来種を取り上げることは、どうなのかというご意見もありそうなのですが、
近年、瀬戸内町の文化遺産であり、観光資源でもある「デイゴ」が、
外来種『デイゴヒメコバチ』による被害により、花が咲かないという状況が続いていました。
このような状況をどのように対応していくべきか?
そんな課題を町内外の皆さまとともに考える機会をと今回の講座を企画させていただきました。
加計呂麻島の諸鈍集落にある、“デイゴ並木”に紅の花を確認したのが2004年
その頃から、花の咲く木々が少なくなってきている、と感じていました。
『デイゴヒメコバチによる被害』とは、どういうことなのでしょうか。
今回、S.B.Iでは、
鹿児島大学農学部生物生産学科害虫学研究室から
准教授 坂巻 祥孝(さかまきよしたか)先生をお招きし、
『奄美におけるデイゴヒメコバチの発生消長および新たな防除法の模索』と題し、
ご講話いただきました。
*消長・・・勢いが衰えたり盛んになったりすること
今回の記事では、現地調査の様子も交えながら、ご紹介していきます。
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まずは、現況報告です。
最初に向かった先は、加計呂麻島の諸鈍集落にある“デイゴ並木”
瀬戸内町の文化財(天然記念物)でもあります。
樹木医 前田芳之先生にも現地で、調査指導していただきました。
一番奥の木々は、デイゴ並木の中でも最も古い木々です。
写真・頭上の大木もその一つ。
冒頭1枚目の写真と同じ場所なのですが、(軽自動車がある場所)
“前は、(枝の高さが)頭の上だったんだ。軽トラが入っていたが、今はもう入らない”
デイゴの枝は成長し、重みでどんどん下に下がってきているのです。
実際にデイゴの大木を見ていると、デイゴが生き続けていることを実感することができました。
残念ながら、『デイゴヒメコバチ』を今回の調査でも確認しました。
ほんとに小さくて驚きました。これは、オスだそうです。
『デイゴヒメコバチ』が新種として記載されたのは、2004年
2003年シンガポールにて被害を初確認され、台湾、レユニオン島、モーリシャスでも発見されました。
2005年までに香港、深セン(中国)、ハワイ州オアフ島にも侵入が確認されました。
日本国内では、
2005年沖縄県石垣島で発見、同年徳之島で確認
2006年奄美で確認
2007年喜界島で確認
2003年に発見されてから、あっという間に世界各地へ広がっています。
奄美大島では、2007~2008年にかけて急激な被害がみられました。
成虫の寿命は、約7日ほどだそうです。
その間に、卵を産みつけます。
そして、孵化した幼虫は、「虫こぶ」を形成します。
この中で、約20日間、成虫になるまで成長します。
成虫になると、葉の外に脱出。
写真の茶色い跡が、脱出した時の穴です。
脱出した成虫が、また、卵を葉に産みつけ、虫こぶを形成する。
これが繰り返されて、デイゴに大きなダメージを与えていくのです。
講座では、
瀬戸内町におけるデイゴヒメコバチの発生消長調査結果として、
「春から秋にかけて、約6回の発生ピークが認められた」というお話しがありました。
このような、トラップをかけて、調査がなされています。
発生消長の調査結果から、
防除する効果的な時期なども現在わかってきています。
冬場には、ほとんど発生せず、春先から活発になる傾向があります。
防除するに効果的な時期は、「春先と秋口」が有効であるそうです。
防除法の選択肢として、
①空中散布
②樹幹注入
④株元土壌散布
などの紹介がありました。
瀬戸内町でも、今までも様々な防除事業を行ってきています。
その一つ、株元土壌散布を行った場所のデイゴの葉を見てみると、
葉の中で孵化できない卵を確認しました。
こちらは、孵化後、成虫になって、脱出できないまま死滅していました。
死滅した虫は、このまま葉の成分に取り込まれていくということです。
薬は効いているんだ。と感じました。
株元土壌散布では、6か月ほどの効果があるということでした。
一方、ある種の農薬散布後は、他の害虫が必ずといっていいほどつき、
葉が食べられてしまうということもわかっています。
※ハチに効く薬を散布すると、ハチ類やクモが死んでしまうため、ハチに捕食される虫が増えてしまいます。
葉がスカスカになっている部分が、“蛾”による被害です。
また、樹幹注入に関して、
加計呂麻島で見られるデイゴは、
樹齢200年、300年、400年ともいわれている巨木が存在します。
これらの樹幹に、キズをつけて薬剤を注入する方法は、
樹にとっての負担がたいへん大きくなるということでした。
樹幹注入という防除法も、安易には選択できないようですね…
「薬剤をまくこと」は、周辺環境と住民のみなさんへの配慮も必要となってきます。
化学薬剤にばかり頼ってはいけない、他の方法も探す必要があります。
そこで、現在注目されているのがデイゴヒメコバチの「外敵」を入れる、という方法。
講座では、アメリカ合衆国ハワイ州での防除成功例の紹介がありました。
ハワイでは、固有種デイゴ(Wiliwili)を守るために、
「天敵寄生蜂」を導入放飼にし、成功をおさめた事例の紹介がありました。
しかし、注意しなければならないのは、
ハワイの事例は、『ハワイ固有種のデイゴ(Wiliwili)を守ることができた』ということ。
ハワイと奄美に多くあるデイゴでは種が違います。
そのため、ハワイと同じ防除法は奄美のデイゴ(Erythrina variegata)へは、安易に使用することはできない、ということです。
防除法の選択は、慎重に行わなければなりません。
今回の講座・現地調査を通して感じたこと。
それは、デイゴを守っていくために、
この地域のデイゴをなぜ守るのか?デイゴの種類にとって最善の防除方法は何か?
ということをみんなで真剣に考えていくことが重要だ、ということでした。
こちらは、以前、枯れた枝を切断し、処置した木の幹です。
色のついて濃くなっている部分が処置した跡、
そこからキズが徐々に埋まってきています。
何百年と生きてきた樹にも、キズを癒すチカラがあるんです。
“樹が生きてる”そう実感した瞬間でした。
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加計呂麻島で見られる樹齢200~400年ともいわれるデイゴの木を紹介します。
旧須子茂小学校内のデイゴの木
子供たちを見守って来たデイゴです。
旧須子茂小学校前のデイゴの木
阿多地集落のアシャゲそばのデイゴの木
色々な伝説もあるデイゴの大木です。
阿多地集落のデイゴの木は、とても大きかったです。
スラッとした幹がとても美しく特に背の高い木でした。
外来種の影響だけではなく、
台風などの災害、道路工事などによる断根の未処置など、
樹が生きていくためには、様々な問題があるようです。
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それでは、講座の風景です。
講座にご参加いただいたみなさん。真剣な表情です。
今回の講座では、最後に活発な質疑・応答が交わされました。
大変貴重なご意見と
シマの方々のデイゴへの思いを聞くことができました。
・・・
なぜ、デイゴにそんなにこだわるのか、という質問がありました。
その質問に対し、加計呂麻島からお越しいただいていた島人からの答えです。
“わたしたちにとっては、ただの観光資源ではない。
島に帰ってきた時、デイゴ並木を見下ろして涙する人もいる。
先祖からデイゴを受け継ぐものとして、これからも残していきたいものなんです”
“土地の者にはとても大事なものなんです”
島に住む人の声が聞けて、本当に良かったと思いました。
今回、講座にご参加頂いたみなさんからアンケートをとりましたので、
ここで一部ご紹介します。
・島の人間ではありませんので、写真でしか満開のデイゴ並木をみたことがありません。
今ここで枯れてしまうのはあまりにももったいなく思います。
諸鈍の方たちだけでなく、奄美の方にとって心の拠り所とだと思います。
知らないところで人力されていると感心しました。
・天敵はこわいです。
・町の方針を決め、守るために、町民に説明することが先だと思いました。
・デイゴヒメコバチについて、住民と行政が共通認識をもち、保護、環境の両方の観点からまた講座があったらいいな
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最初は、専門的すぎて参加者が少ないのでは無いかと心配しましたが、
地域の皆さん、町役場、観光関係、農業関係の方々など、本当にたくさんの方にご参加いただきました。
デイゴはシマの人たちが大切にしている樹であることを実感できた、貴重な時間でした。
今後、デイゴをどうしていくのが良いのか?
みんなで話し合う場をもっと持つ必要がありますね。
ブログをご覧の皆さんは、どのようにお考えになりますか?
今回の講座について、ご意見、ご感想などいただければ幸いです。
2013.12.12
調査員 Tadashi